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カラダにいい映画
2014.07.16

カラダにいい映画 第5回
今世紀最高のスポーツ映画は何か?

BRUTUSで主に映画ページを担当するライター・門間雄介さんが選ぶ、「カラダにいい映画」をご紹介。

 

 

「カラダにいい映画」最終回は、「今世紀最高のスポーツ映画は何か?」という無謀な問いに挑みたいと思います。当然、『ロッキー』(1976)や『レイジング・ブル』(1980)、『フィールド・オブ・ドリームス』(1989)といった作品は20世紀中の映画なので選外。すると、ほら、案外見逃していませんか、スポーツ映画の新たな名作を。

 

 真っ先に挙げたいのはやはりこれ。クリント・イーストウッドが監督・主演したアカデミー賞4部門制覇の傑作、『ミリオンダラー・ベイビー』(2004)です。ボクシングジムを営む老トレーナー、フランキーのもとへやって来た女ボクサーのマギー。既に31歳と決して若くない彼女は、どん底の生活から這い上がる最後の希望を、フランキーの指導に託します。彼の教えを受け連戦連勝を重ねるマギー。しかし、世界タイトル戦に挑んだ彼女を待ち受けていたのは、思いもよらぬ悲劇でした。「ボクシングは尊厳のスポーツ。人の尊厳を奪い、それを自分のものとする」という冒頭の一言が表すように、本作はボクシングを通して、人間の尊厳を描き出す至上のスポーツ映画。何度観ても震えが止まりません、師弟が示す崇高な愛に。

 

 ドキュメンタリー作品から一つ挙げるとするなら、『アイルトン・セナ~音速の彼方へ』(2010)を推したいと思います。F1世界選手権で3度のワールドチャンピオンに輝きながら、1994年、レース中の事故によって不慮の死を遂げたアイルトン・セナ。この作品は、彼がキャリアをスタートさせたカート時代から、最後のレースとなった1994年のサンマリノGPまで、当時の映像によってその足跡を辿る貴重なドキュメンタリーです。いや、貴重なだけならファン向けの作品にとどまるでしょうが、本作はマクラーレンの同僚だったアラン・プロストとの確執を掘り下げ、政治と金が支配するF1の闇を暴き出します。すべてを走りに捧げ、34歳の若さで散った“音速の貴公子”の物語は、ただもう悲痛としか言いようがありません。

 

 日本のスポーツ映画史上に残る名作と断言したいのが、三浦しをんの原作を実写化した『風が強く吹いている』(2009)です。部員10人の弱小陸上部が、箱根駅伝に奇跡の出場を果たす青春群像劇は、まず体型、フォームなど、長距離ランナーのリアリティーを体現したキャストの走りが見事です。そして、空撮や中継車の映像などが映し出す、本編のおよそ半分にわたる箱根駅伝のシーンが、あたかもスポーツ観戦をしているのと同様の臨場感を観る人に与えます。沿道を観衆が埋め尽くす中、汗を光らせながら、飛ぶように走る選手たち。感動を呼ぶのは、もちろん物語であり、また彼らの走りそのものです。

 

 最高のスポーツ映画とは、結局のところそのスポーツの本質を、ありのままに伝えるものなのかもしれません。

 

■『ミリオンダラー・ベイビー』
監督・出演:クリント・イーストウッド、出演:ヒラリー・スワンク/00年代に入り、監督として絶頂期を迎えていたイーストウッドの代表作。マギー役で壮絶な演技を見せたスワンクが、本作で2度目のアカデミー賞主演女優賞を獲得した。神々しさすら感じる一作。

 

■『アイルトン・セナ~音速の彼方へ』
監督:アシフ・カパディア、出演:アイルトン・セナ/34歳で急逝した天才ドライバーの軌跡。「僕は神に近づいた」「神の存在を感じたよ、神を見たんだ」と神の存在を意識する発言をくり返し、それゆえ命知らずの走りを見せたブラジルの英雄、セナの素顔に迫る。

 

■『風が強く吹いている』
監督:大森寿美男、出演:小出恵介、林遣都/ケガで走ることを諦めた陸上部のキャプテンが、とある理由から陸上界を追われた天才ランナーと出会い、再び箱根駅伝出場の夢に邁進していく。個性的な面々が揃った陸上部の奮闘を、笑いと涙を交えて描き出す感動作。

 

門間雄介
もんま・ゆうすけ
編集者、ライター。「CUT」元副編集長。08年「T.」創刊。編著書に「実験4号」伊坂幸太郎×山下敦弘など。BRUTUSをはじめ、多数の雑誌で編集執筆。イオンシネマ「シネパス」の作品選定などにも携わる。

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