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カラダにいい音楽
2014.04.01

カラダにいい「音楽」第五回。
運動後はクールダウンが重要。

BRUTUSで主に音楽ページを担当するライター・渡辺克己さんが選ぶ、「カラダにいい音楽」をご紹介。

 

 

運動を終えた後、汗を流すためにシャワーへ直行した気持ちをちょっと抑えて、熱を持った筋肉を醒ますため、軽い柔軟体操やストレッチをすることをお薦めします。
 また、ハードに身体を動かした後ほど、神経が昂っているのか、テンションが下がらず、夜になっても寝付けなかったりすることもあります。これでは翌日に差し支えるので、なにかこころを静めるものを用意した方がいいですね。

 

 こころを静める音楽といえば、さまざまですが、ここではアンビエント/チルアウトと定義の音楽、その源流になったものを紹介します。

 

 まず、アンビエント。70年代後半にロキシー・ミュージックを脱退したブライアン・イーノが製作した『AMBIENT1:MUSIC FOR AIPORT』から定義された音楽のこと。NYのラガーディア空港から、マリンターミナルの館内用BGMを制作するよう依頼されたイーノが、当の空港に降り立ってみると、アナウンスとそれを知らせるサイン音の響きが、意外と心地よいことに気が付く(忙しなく人が行き交う空港内では、乗客が焦らないように、アナウンスなどはなるべくゆっくり設定されている)。わざわざ旋律を作るのではなく、そんな静かな雰囲気を引き立たせるようなサウンドスケイプを、自らのスタジオで描いたという。スーッという自然音としてのノイズを下敷きに、ゆったりしたピアノの旋律、女性の声、シンセサイザーの音などを構成。鳴っていないようで、実は人間の生活の下に敷かれた音楽は、聴くというよりも、身体に染み入るような響きがある。当時の空港は、BGMなどなく、多くは無音状態だったという。
『AMBIENT1:MUSIC FOR AIPORT』から、“環境”を意味する“アンビエント”が取られ、ひとつのジャンルとして定着している。
 一方、チルアウトは80年代後半から90年代前半のイギリスで生まれた概念。アメリカからアシッドハウス。イビザ島からロックやジャズなど、さまざまジャンルからダンスビートを抽出したバレアリックミュージックが、一気にイギリスに入ってきた。DJカルチャーから生まれたムーブメントは、屋外でのダンスパーティが最盛を極めた時期と一致した。体力が続く限り踊り続けた身体を静めるために、当初はやはりイーノのアンビエントが聴かれていたという。
 しかし、多くの若者たちの需要に呼応するように生まれたのがKLF『CHILL OUT』。ジャケットが示す通り、草原でフィールドレコーディング(*1)された作品には、ゆっくり通り過ぎる電車の走る音、遮断機の警笛、風の音など。のどかな田園の風景を想起させるサウンドスケープが描かれている。一晩中踊り続けて疲れた若者たちは、自宅で、恋人と、仲間たちと車内など、さまざまなシチュエーションで『CHILL OUT』を聴きながら、朝を過ごしたことから、いつの間にかアルバムタイトルを越え、「チルアウトする」といったように、一般動詞になったというから、その影響力は計り知れない。

 

おもしろいことにイーノはロックンローラー、THE KLFの2人も元々パンクスだったというところ。激しい音楽を演奏した後には、こころと身体を静める音楽が必要なのかもしれません。

 

 

〈こころと身体を静めるアンビエントとチルアウト。〉

 

■BRAIAN ENO『AMBIENT1:MUSIC FOR AIPORT』
ロキシーミュージック脱退後、ロックンロールと決別したイーノだが、音楽の探究心は止まらず。70年代後半はトーキングヘッズのデヴィッド・バーンとアフリカンビートの探求、さらにデヴィッド・ボウイと共にベルリンへ渡り、ミニマルミュージックを取り入れたサウンドアプローチを展開。そんなハードな活動には、アンビエントがピッタリだったのかもしれない。

 

■THE KLF『CHILL OUT』
エコー&ザ・バニーメンなど、人気を博したニューウェイヴバンドのスタッフ経たビル・ドラモン。延々と売れないソロ活動を続けた後、同じくロックバンドでくすぶっていたジミー・コウティと邂逅。『CHILL OUT』でセカンド・サマー・オブ・ラブ(*2)に生きる若者の心を掴んだと思いきや、今まで散々苦渋を飲まされてきた音楽業界に、嫌味満点の活動を展開していた。伝説として語り継がれているエピソードはドラモンドの半自伝『45 ザ THE伝』に掲載。

 

 

(*1)
フィールドレコーディング 文字通り、屋外にマイクを立て、街中の騒音から、山の中で河のせせらぎや鳥の鳴き声などを録音すること。
(*2)
セカンド・サマー・オブ・ラブ 60年代のヒッピーカルチャーの音楽的な側面をなぞった“サマー・オブ・ラブ”から拝借。

渡辺克己
わたなべかつみ
ライター。『BRUTUS』や『CasaBRUTUS』などで、音楽ページを担当。夜は、DJとしても活動中。

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