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カラダにいい本
2013.11.21

内沼晋太郎さんの選ぶ、
カラダにいい本。「走る」編

内沼晋太郎さんが選ぶ「カラダにいい本」。どうカラダにいいのか、それは読んでからのお楽しみです。

 10万マルクもの大金を、電車に置き忘れた。20分後までに用意しないと、ボスに殺されてしまう。トム・ティクヴァ監督の出世作である映画『ラン・ローラ・ラン』でローラが走るのは、電話で助けを求めてきた恋人を救うためだ。唐突に課されたタイムリミット。一刻一秒ごとに起こる偶然と、それに対する小さな判断とが、物語の結末を変えていく。ローラは最愛の人を守るため、運命を変えるために、急いでいるから走るのだ。

 

 ところがぼくには、ローラのように走る理由がない。走る能力を持っていたからこそ、人間は植物だけではなく動物をも捕えて食すのだとも言えるのだろうけれど、現代に生きるぼくたちの多くは、走って獲物を追うことはない。日常で走るシーンはせいぜい、目の前の電車に乗れるか、次の電車を待つことになるか、というようなときに、少々小走りするだけだ。多く見積もっても週に1回あるかないかで、走るとしても数秒、長くても数分というところである。だからぼくはつい最近まで、現代人が走るのはあくまで健康のため、フィットネスとして走るだけなのだ、と思っていた。

 

 ところがマーク・ローランズ『哲学者が走る』を読んで、その考えはひっくり返された。彼は「走ることは、人生で何が大切で価値があるのかを、理解する方法の一つ」であり「走ることで具体化するあるタイプの知識がある」という。人は「道具的価値」のためだけではなく、走ることそれ自体の「内在的な価値」のために走るのだ、と彼は言う。ぼくにも走る理由ができたというわけで、何冊かの本をご紹介。

 

■マーク・ローランズ『哲学者が走る』(白水社)
世界的なベストセラーとなった『哲学者とオオカミ』に続く邦訳第2弾。ほとんど走らない人は明日にも走ってみようかなという気持ちになり、日々走っている人は走っている自分が大きく肯定されたような気持ちになることでしょう。

 

■山中俊治『カーボン・アスリート』(白水社)
日本を代表するプロダクトデザイナーが、アスリート用義足のデザインに挑むドキュメント。2020年のパラリンピック開催に向けて、読んでおきたい一冊です。

 

■高野秀行『世にも奇妙なマラソン大会』(本の雑誌社)
表題作は、ジョギング程度の経験しかないのに突然思い立って、サハラマラソンに申し込んだ著者の話。走るのに理由なんていらないのかもしれません。

 

内沼晋太郎
うちぬましんたろう
numabooks代表、本屋B&B共同プロデューサー。ブック・コーディネーター、クリエイティブ・ディレクター。

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